清流の女王と称される「鮎料理」

鮎の塩焼き

都心からすぐの清流で出会う、夏の風物詩「香魚」

埼玉県の南西部に位置する飯能市は、水と緑のまちとして知られ、入間川や高麗川といった美しい清流が市内を蛇行しながら流れています。
都心から電車や車で1時間ほどというアクセスの良さでありながら、一歩山間に入ればそこは深い緑と澄んだ水に囲まれた別天地です。

そんな飯能エリアにおいて、初夏から秋にかけての食の主役となるのが、清流の女王とも称される鮎です。
この地域の川は、古くから鮎釣りの名所として太公望たちに愛されてきましたが、釣り人だけでなく、一般の観光客にとっても鮎料理は季節限定の特別なご馳走です。

鮎は、良質な苔を食べて育つことから、スイカやキュウリにも似た独特の爽やかな香りを持っており、別名「香魚(こうぎょ)」とも呼ばれます。

特に水質の良い入間川や高麗川の上流で育った鮎は、臭みがなく、上品な脂と芳醇な香りが際立っているといわれています。
6月の解禁とともに始まる鮎のシーズンは、夏の盛りを経て、卵を持つ落ち鮎が楽しめる秋まで続き、時期によって少しずつ変わる味わいを楽しむことができます。

シンプルだからこそ奥深い。塩焼きと田楽の魅力

職人技が光る、黄金色の塩焼き

鮎料理と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり王道の塩焼きではないでしょうか。
飯能周辺の川沿いに点在する川魚料理店や観光やな(簗)では、獲れたてや生簀で泳いでいた新鮮な鮎を、その場で串打ちして炭火で焼き上げてくれます。

この「焼き」の技術こそが、家庭では再現できないプロの味の真髄です。
遠火の強火でじっくりと時間をかけて焼くことで、皮はパリッと黄金色に、中の身は水分を逃さずふっくらと蒸し焼きのような状態に仕上がります。

化粧塩を振られたヒレは焦げることなくピンと立ち、見た目にも美しい姿で提供されます。
頭からガブリとかぶりつけば、香ばしい皮の風味と、ホロホロと解ける白身の甘み、そしてハラワタ(内臓)のほろ苦さが口の中で渾然一体となり、日本酒や冷えたビールが進むこと間違いありません。

この独特の苦味こそが、大人の夏を演出する最高のスパイスとなります。

味噌の香りが食欲をそそる魚田(ぎょでん)

塩焼きと並んで人気があるのが、鮎の田楽、通称「魚田(ぎょでん)」です。
素焼きにした鮎に、甘めの特製味噌ダレをたっぷりと塗り、もう一度軽く炙って焦げ目をつけた料理です。

焼けた味噌の香ばしい匂いが漂うだけで、食欲が一気に刺激されます。
淡白で上品な鮎の身に、濃厚な味噌のコクが絡み合い、塩焼きとはまた違った力強い味わいを楽しめます。

ご飯のおかずとしても最適で、白いご飯の上にのせて豪快に食べるのもまた一興です。

その他にも、骨まで柔らかく煮込まれた甘露煮や、新鮮な若鮎ならではの背越し、炊き込みご飯である鮎飯など、店によって様々な調理法で旬の味覚を提供しており、鮎という魚の懐の深さに驚かされることでしょう。

川のせせらぎをBGMに。五感で涼むロケーション

水面を渡る風を感じるテラス席

飯能エリアの鮎料理店を訪れる最大のメリットは、その卓越したロケーションにあります。
多くの店が川のせせらぎが聞こえる場所に立地しており、窓際の席や、川に張り出したテラス席、あるいは京都の川床のような座敷席を設けています。

エアコンの効いた室内も快適ですが、天気の良い日はぜひ外の空気を感じられる席を選んでみてください。
目の前を流れる清流のきらめき、木々の緑、そして絶えず聞こえてくる水の音。

これらすべてが天然のクーラーとなり、都会の猛暑を忘れさせてくれます。

食事を待つ間、川面を眺めていると、時折カワセミが飛んだり、魚が跳ねたりする姿を見かけることもあります。

ただ食事をするだけでなく、その場の空気感ごと味わう体験こそが、ここでのランチを特別なものにしてくれます。

アクセスとシーズンの注意点

これらの食事処は、西武池袋線の飯能駅や東飯能駅からバスでアクセスできる場所もありますが、やはりドライブやツーリングの途中に立ち寄るのが便利です。
県道53号や県道70号沿いには、看板を掲げたお店が点在しています。

名栗湖へのツーリングや、ハイキングの帰りに立ち寄るプランもおすすめです。

ただし、鮎料理は季節限定であることが多く、また人気店は週末のランチタイムには非常に混雑します。
焼き上がりに数十分かかることもあるため、時間に余裕を持って訪れるか、事前に予約を入れておくとスムーズです。

夏の盛りには若鮎のみずみずしさを、秋には子持ち鮎の濃厚な旨みを。

季節の移ろいを舌で感じる贅沢な休日を、飯能の川辺で過ごしてみてはいかがでしょうか。